鼓膜切開・チュービング
中耳炎に対する治療法に鼓膜切開やチュービングという方法があります。鼓膜に穴を開けるということに対して不安を感じるかもしれませんが、これらは難治性の急性中耳炎に対して大変有効な方法です。
鼓膜切開とは、鼓膜に小さな穴を開け、中耳腔に溜まった膿や滲出液を吸引除去する方法です。
急性中耳炎の重症例では中耳腔内に大量に膿が溜まっており、このような場合にはまず鼓膜切開によって膿を吸い取り、細菌量を少しでも減らしてから抗生物質を使うほうがより効果的で、服用期間も短縮できます。
細菌が充満した状態では抗生物質が効きにくく、当然服用期間も長くなってしまうのです。
最近では抗生物質の効きにくい薬剤耐性菌の出現による中耳炎の難治化が問題になっていますが、服用期間の短縮は新たな薬剤耐性菌の出現を予防することにもつながります。
抗生物質を続けるだけの治療では、むしろ中耳炎をこじらせてしまうことさえあるのです。
長期に経過した滲出性中耳炎においても、滲出液が粘調になってますます抜けにくくなっており、この場合にもやはり鼓膜切開による排液が行われます。
これによって中耳腔に空気が流入すると、炎症が鎮まりやすくなるのです。
先にお話したように、小児では耳管(中耳と鼻の奥をつなぐ管)が構造的、機能的に未熟なことから、鼻やのどの炎症が耳に及びやすく、中耳炎を繰り返す傾向があります。
この場合には、必要に応じて切開を繰り返すことになります。
何度も鼓膜を切開して大丈夫か?との質問をよく耳にしますが、多くの場合切開孔は数日でもと通りに再生し、難聴を残したりすることはありませんので心配は要りません。
ただし、鼓膜切開を数回行ってみて改善が見られない場合には、チュービングを行います。
これは切開孔に小さなチューブを挿入しておく方法で、これによって持続的な換気ができるようになるとやがて中耳炎は改善の方向へ向かいます。
また何度も鼓膜切開を繰り返すことは小児にとって大きなストレスになると考えられますので、その意味でもやはりチュービングが必要と考えます。
チュービングは経験を積んだ医師にとっては手技的に難しいものではありませんので、2〜3歳までは外来で行い、数分程度で終わります。4〜5歳くらいになると大人数人がかりでも抑えることが難しくなりますので、全身麻酔が必要になります。
チュービング後は中耳腔と外界とが交通するため、洗髪時など耳に水が入らないように常に注意が必要です。
きちんと耳に合ったサイズの耳栓をすれば、プールも問題はないものと考えます。
中耳の状態が改善するとチューブは自然に脱落しますので、問題がない限り通常はわざわざ抜くことはありません。
チュービング後の感染は後々穿孔を残す原因となりますし、あるいはチューブが耳垢で詰まったり、脱落して中耳炎を再発していることもありますので、症状が見られないようでも月に1回程度の経過観察が必要です。